| 04 何処か遠くに行きたい 現状に不満を抱いているわけでもない。この地に不安を覚えているわけでもない。 過去に何があろうと、未来に何が起ころうとも、この広大な大地は全てを飲み込み風化させてくれる。 遷ろう時の流れに乗って何処までも遠くへ。 地に蔓延りし我等の夢を優しく内包する。 この大地は故郷まで繋がっている。 過去と現在と未来を引きずって決して離してなんかくれないのだ。 あの懐かしき黄砂の舞う乾地の記憶は決して薄れることはないのだから… 「こんにちは、馬超殿」 「…あー姜維か」 「何を見ていたんです?」 「何を…って言われてもな…あえて言うなら空?」 「えーと、それはまぁ…上向いていたのを見ていましたから知っていますけど」 「じゃあ聞くなよ。…っていつから見ていたんだ?」 「少し前から。そんなに時間は経っていないはずですけど」 「……姜維、お前はさ」 「はい?」 「変なこと聞くけどよ。意味もなく苦しいなって思うことないか?」 「…馬超殿は苦しいんですか?」 「聞き返すなよ。俺が先に質問したんだから答えろよ」 「…そうですね……あると言えばありますけど、多分馬超殿の言っている意味とは違うような気がします。馬超殿は苦しいんですか?」 「あー…いや。別に。で、姜維の苦しいってのは」 「馬超殿。私は質問に答えましたけど?馬超殿は人に質問しておいて人の質問には答えないんですか?」 「…姜維…お前そういうキャラだっけ?」 「人間は日々邁進するものですから。…従兄殿にはかないませんけど」 「勝てるやつの方がどうかしてるんだ。あいつに勝てるのって子龍と丞相くらいだろ」 「あとは魏延殿と黄忠殿くらいですね。…で、苦しいんですか?」 「あー…まぁな」 「具体的には?」 「全てを投げ出して何処か…誰も知らないような所に行きたいと思うときがある」 「一人で、ですか?仮に馬超殿がそんなことをしたら」 「間違えなくアイツもついて来るだろうな」 「ついてきて欲しくないのですか」 「ついて来られたくないな」 「……もしかして苦しいというのは従兄殿のことですか」 「まぁ大半はそうだな」 「………」 「アイツは昔からああだったからな…」 「でも、たった一人の家族でしょう?」 「だからこそ…俺一人に固執しているアイツの存在が重いんだよ」 「固執…?」 「アイツのためにも俺はいなくなった方がいいんじゃないかって思うときがある」 「いなくなったら従兄殿は地の果てまで捜しに行くでしょうね」 「だな。……どうしてアイツはそうなってしまったんだろうな」 「………」 「アイツはワザと目立たないように俺の影に隠れているだけで、結構すごいヤツだった」 「………」 「俺の従兄弟ということを強調している意味がわからない」 「………」 「一族が死んだときも…アイツは悲しくなかったんだ」 「表に出さなかっただけではないですか?」 「そうじゃねぇ……あれは怒っていた、というのか…なんて言っていいのかわからないが、俺とは違うことを考えていたような気がする」 「………」 「それは置いといて、だ。アイツは別に俺に付き合ってここで飼い殺しにされていなくてもいいだけの器量はあるのに」 「飼い殺しって何です?」 「……言葉のアヤだ。アイツは別のところに行けるはずなんだよ。一族の血を絶やさぬためなら敢えて全国各地に散らばった方がいい。現に丞相、諸葛家はそうしているしな」 「従兄殿は馬超殿のこと優先ですから」 「それが嫌なんだけどな。俺とアイツの二人だけの一族になってしまったのにアイツは俺のことをまだ長扱いしているんだ」 「……それが苦しいんですね」 「かも、な」 「それで馬超殿、飼い殺しというのは?」 「…お前、本っ当にいいキャラしてるな」 「一応軍師の端くれですので」 「丞相の弟子だもんな…じゃあ、軍師の端くれなんだから自分で考えてみたらどうだ?」 「えー、そんなのズルイですよ。教えてください」 「さっきのお返しだ。ちょっと考えてみたら気づくことだ。そんくらい考えてみろよ」 あの日、何処か遠くに行きたがっていた彼は そう遠くない未来にこの世から消えた。 望んだとおり彼の従兄を地に置き去りにして。 質問配布元は こちら「SILENT SPEECH 」 |
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