06 しょせんその程度


どうやら”錦馬超”が死んだらしい。

風の噂でそう聞いた。

戦が終わってからしばらくして知ったことだが彼は戦の初期に、あの天然の要塞から出ることもなく没したようだった。

自分の立場を考えると、安堵こそすれ落胆することはないが、少し残念なことだと思った。

”錦馬超”が死んだということにではない。

”錦馬超”が死したことによって、今まで手を組んでいた相手の協力が得られないという事実に、だ。

馬岱。字は璃岳。”錦馬超”の従兄であり、絶対の忠義者。

彼がこちらにもらした情報の効果は絶大だった。

おかげでこちらは荊州の地を得ることができ、さらに夷陵の地での戦にも完勝することができた。

が、しばらく前に出した文の返事が来ないとなると、もう彼はこちらに協力する気はなくなったのだろう。

「しょせんその程度の人でしたか」

従弟を支え、従弟のために働き、従弟を想って動く。

盲目なまでの忠義。故に、主亡き今は揺さぶっても決して動かない。

否、動けないのだ。彼は。

支える者がいなくなった彼は、優秀なだけの木偶。

目的も無く、ただ亡き人を想って生きる人形。

そこまで人を愛せたことは羨ましいとも言えるが。

「私はそんな風にはなれませんけど」

正しくは、なれませんでしたけど、なのだろう。

呂蒙殿が亡くなった時、私の目の前には途(みち)があったから。

周喩殿がなぎ倒し、魯粛殿が切り払い、呂蒙殿が踏みならした途。

私には、成すべきことがあったから。

残されたものを、託されたものを、皆の前に堂々と掲げること。

呉を支える人柱たちが私を動かす。

それに比べ彼は…”従兄殿”はどうなのだろう?

呉に内通していた彼は知っているはずだ。蜀が天下を望むは薄氷を踏むが如き行為だということを。

「蜀が天下を取れるはずがないということは一目瞭然ですけど」

いや、だからこそ。呉は劉備を蜀に……天然の要塞に封じ込めるだけで息の根を止められる。

それでも”従兄殿”は蜀からもう出てこないだろう。

ならば、もう気にする必要はない。

自分には途があるのだから、不幸な人を羨むこともない。

「呂蒙殿、劉備は蜀に封じました。貴方の計略、この陸伯言が継がせていただきます」

照らされし地平。その先までも……







質問配布元は こちら「SILENT SPEECH

 

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